「シン・製造業」が当たり前となったその先 働き方の未来【連載】シン・製造業#9

寺嶋 高光 ISIDビジネスコンサルティング代表取締役社長

 

第1~2回目では、日本の製造業の現在地をテーマに、マクロ的視点では日本の製造業の変化がまだ十分に起きていないことをお伝えしました。
第3~4回目では、「日本の製造業における6つのパラダイムシフト」と題して、既に変化するために追い風となるきっかけが多く発生していることをお話ししました。
第5~8回目では、この連載の中核となる、どうしたら「シン・製造業」への変化が起こせるのかそのアプローチ手順を紹介しました。

ここからは、最終章として「シン・製造業」が当たり前となったその後の社会における働き方の未来を述べてみたいと思います。

【働き方の未来①】複業する時代へ

「複業」としたのは、複業は副業とは異なり、本業とサイドビジネスの関係性ではなく複数の本業を持つことを意味しています。
「シン・製造業」は、経済合理性曲線の外側に多くの新事業「小さな世界」を創出します。「小さな世界」がたくさん増えるということは、職の種類、働く場所がたくさん増えるということを意味します。
そしてこの「小さな世界」を創り出す行為は、既存で所属している組織とは、目的もゴールも、仲間もオペレーションも異なるため、複業として従事する形になります。つまり、複数の本業を持つわけです。

新しい価値を産み出すことに強い Willを持つ人は、2~3つと複業をすることが当たり前になってくるだろうと思います。この場合、収入の考え方も、一つの企業からだけ給与を受け取る形から、複数の価値提供先より分散して収入を得る形になります。 働き方としては、完全に独立起業するケース、一つの企業をベースキャンプとして当該企業が関連する複数の事業を行うケース、ビジネスをプロデュースする事務所、団体に所属する様なケースなど、多様化することが考えられます。

ただ現段階では、法整備も会社における規則なども成熟したものにはなっていませんので、強いセルフマネジメントが求められます。
この様なケースが増えてくれば、より安心して気軽にチャレンジができるように、法律や企業の職務規程などの環境が整ってくるのではないかと考えます。

【働き方の未来②】組織人事戦略の超多様化

「小さな世界」を複数産み出し、これを創造する社員の複業業務形態を許容していくためには、企業は組織人事戦略そのものを変えていく必要が出てきます。

複業を行っていく組織は既存のピラミッド型の階層マネジメント構造は向いておらず、たとえば「小さな世界」ごとのセルフマネジメントが許容されるパラレルチーム構造が向いています。
さらに複数の「小さな世界」がお互いに関係し合うようなコミュニティになった場合には、各コミュニティの一人ひとりが密接に協力し合うWEB型の構造になり、この協力関係がさらに密接になった場合(連携の頻度が恒常的になるようなケース)には、コミュニティが入れ子構造になる組織構造も考えられます。

これらの構造ごとに予算立案の方法、一人ひとりのキャリアパスの考え方、目標設定や評価のあり方の確立が求められ、働き方は、多様性を帯び、組織の中における教育(共育)体系も多様化してくるでしょう。

「シン・製造業」が当たり前となった後の社会における働き方の未来について、あともう一つ提示したいと思いますが、それは次回、最終回でお話しします。

30年間停滞している日本経済が豊かになる「新時代」へ

今回は、「シン・製造業」が当たり前になる未来のお話しをしましたが、この連載で度々お伝えした通り、現状では、30年間日本経済は停滞している状況だと感じています。

少子高齢化、他国による日本市場の浸食、コロナ禍、地域紛争によるエネルギー危機など、先行きが読めない状況に直面し、その影響を大きく受けるのが製造業です。
トヨタやソニーのような大企業であっても、この危機感を共有し、新しい価値を創出するビジネスに進出しています。
トヨタは、静岡県の富士山麓に「ウーブン・シティ」を建設中であり、AI、ロボット、パーソナルモビリティ、自動運転、スマートホームといったものづくりを軸とした、次世代の都市のあり方を模索しています。
また、ソニーは「Vision-S」と呼ばれる電気自動車を試作し、新しいモビリティの形に挑戦すると同時に、ホンダと組んで合弁会社を設立しました。このように、大企業でさえ危機意識を持って「もの」を軸とした新しい価値を創造する次のビジネスを模索しています。

参考サイト:トヨタ「ウーブン・シティ新しいウィンドウで開きます
参考サイト:ソニー「Vision-S新しいウィンドウで開きます

一部には「大企業だからできるのだ」という声も聞こえてきます。しかし、中小の製造業こそ、「シン・製造業」を目指して今すぐ動き始める必要があると考えます。
多くの中小の製造業では、生産現場やバックオフィスなどのデジタル化すらままならない状況にあります。そのような現状にあって、「シン・製造業」に脱皮するに足るデジタル化を進めるためには、5年、10年といった時間が必要になるでしょう。

時間がかかるからといって足踏みをしていたら、その間にも、加速度的な成長を続ける新興国のライバル企業が、日本の市場で存在感を高めます。それは日本の製造業のビジネスが浸食されることを意味しています。

座して死を待つのでしょうか?

中小の製造業こそ、社内のデジタル化と同時並行して海外の企業には真似できない日本独自の価値を持ったビジネスを構築する必要があります。
既存の事業領域から切り離された、小さい複数の新事業の立ち上げ、小さな世界の創出、そして「新時代」へ切り替えてくために、多くの製造業に変革をしてほしいと考えており、この連載が少しのきっかけになれば、幸せです。

次回は「働き方の未来」の3つ目、「仕事が楽しい」というテーマでお話ししたいと思います。

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