社会と人と価値観を変えていく「シン・製造業」の働き方【連載】シン・製造業#10

寺嶋 高光 ISIDビジネスコンサルティング代表取締役社長

 

多くの企業が、DXを進め、新しい価値を生み出す事業を常に模索し、新しいユーザー体験や「小さな世界」を生み出し続ける「シン・製造業」が当たり前となった後、働き方はどう変わるでしょうか?
第9回目の前回は「組織人事戦略の超多様化」について、働き方の未来のお話しをしました。最終回の今回は、「仕事が楽しい」をキーワードに、未来を予測したいと思います。
「シン・製造業」は、働く人の多くが「仕事が楽しい」と感じられる職場環境でなければ成り立ちません。その理由をお話ししましょう。

【働き方の未来③】変わる働くことの価値観「仕事が楽しい」

30年間も日本経済が停滞した理由の一つに、失敗を恐れる、挑戦をしないという空気の存在があると感じています。
企業のトップは「失敗を恐れるな」「挑戦をしろ」と社員に言いますが、ミドルマネジメントは、部下の挑戦を尊重することなく、保守的になっています。これは経営層がミドルマネジメントの失敗や挑戦を許していないからだと思います。

「小さな世界」を構築するためには、その世界、価値を創り出したいという一人ひとりの強い Wiilと挑戦が必要になります。失敗をしたら当然そこから学び、同じ轍は踏まぬ決意でまた新たな挑戦をしていく必要がありますが、これを実践するためには、トップ、ミドルマネジメントによるWillの尊重、安心して挑戦できる環境の提供が不可欠になります。
この様な価値観が醸成されれば、人は仕事が楽しいと感じます。 楽しいと感じれば感じられる程、その人や関係する人たちの成長と成功が増えていきます。
「シン・製造業」は、いきなり成功を求める企業ではなく、仕事を楽しめる環境を創り出す術をたくさん持っている企業だと思います。

「シン・製造業」で働く人は、働くことに対する価値観が変わってくるでしょう。共に価値を創出し合い、分かち合うプレイヤーが協働するコミュニティとして発展、拡張していくものなので、一人の人格上だけに起こる価値観の変化ではなく、製造業の世界だけの変化でもなく、コミュニティ全体、社会全体で、新しい価値空間に働く全ての人に起こるものだと考えています。

今から、シン事業に挑戦すべき理由

「シン・製造業」が目指す姿は、経済合理曲線の内側で、利益の捻出が可能なうちに、経済合理曲線の外側に、製品を軸にした新しいユーザー体験の提供と社会課題を解決するような小さなビジネスをいくつも興すことです。
これまで、何度もお伝えしてきました。

あらゆる業務のデジタル化を進めることで、人員に余裕がでると思います。そのような人員を、シン事業に投入することで、新しい収益源の萌芽を育てます。
もちろん、ただ、人員をシン事業へ投資するだけでは上手くいきません。従来型の意思決定プロセスやガバナンスを踏襲していたのでは新しい価値を創造することは難しいということも、強く主張してきました。
デジタル化を進めてシン事業を動かすだけでなく、組織、企業自体も変革させることで、「仕事が楽しい」と思える環境へ必然的になっていくことも、「シン・製造業」の必要欠くべからざる姿なのです。

新しいユーザー体験の提供や社会課題の解決という小さなビジネスでは、1つの顧客から得られる当初の売上や利益は少ないかもしれません。しかし、複数のシン事業を運用することで収益の最大化を目指すことができると考えています。本業のビジネスが利益を出している今から、シン事業に挑戦すべきという理由はここにあります。
この連載を読んで、なにかを感じ取った製造業の領域に属する方は、ぜひ、今、動き始めてください。

最後に、すでに「シン・製造業」へと動き始めている企業の一例を挙げておきます。

・ファーストリテーリング
2017年に、「製造小売業」からデジタル技術を活用した「情報製造小売業」への変革を宣言。「作ったものを売るのではなく、消費者が求めるものを作る」というビジョンを掲げました。商品企画、デザイン、素材調達、サンプル制作、量産……など、数ある工程の効率化を進め、消費者のニーズを押さえてから服が店頭に並ぶまで2週間という時間軸が設定されました。
2021年には、さらにこれを深化、拡大させるビジョン「サステナブルな情報製造小売業」への変革を掲げ、新たなるコーポレート戦略、バリューチェン戦略、技術革新を繰り返し、成長を続けています。

参考サイト:https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20211014_tanaka.pdf新しいウィンドウで開きます

・味の素
2020年、「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」というパーパスを掲げ、2030年までに10億人の健康寿命を延伸、環境負荷を50%削減というビジョンを発信しました。
以来同社は、「フードテック」「パーソナライズドマーケティング」「スマートファクトリー」「事業モデル変革タスクフォース」など、さまざまなDXの取り組みを行っています。

参考サイト:https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/aboutus/dx/新しいウィンドウで開きます

今回で、この連載は最後となります。
製造業の経営層でおられる方、ミドルマネジメントでおられる方、若手ビジネスマンの方、全ての皆さんにとって夢を持って進んでいけるアプローチを共に考え、実践をさせて頂きたく、この連載を進めて参りました。一つでもご参考頂ける部分がございましたら、大変有難く存じます。

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  • 記載情報は執筆当時(2023年8月)におけるものです。予めご了承ください。
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